見えないものに、価値がある

ダイアログ・イン・ザ・ダークの活動を始められたきっかけを教えてください。

ドイツで始まったダイアログ・イン・ザ・ダークの紹介記事を当時の金井真介、現在の私の夫である志村真介ですが、彼が日経新聞で見て、日本でも開催してみたいと思い発案者のハイネッケに手紙を書きました。

その頃、私はセラピストとして一番忙しかった時でした。私のカウンセリングを待っている方が、半年、一年待ちの状態でした。

先述しましたが、ターミナルケアはボランティアでしたので、交通費等の活動費がありませんでした。そんな私を金井さんは励まし時には手伝いもしてくれていました。

彼は、内心なぜこんなに大変なことに情熱を燃やせるのだろう?と不思議に思っていたようですが、ある時、ダイアログ・イン・ザ・ダークの発案者であるハイネッケと私との共通の願いに気づき、二人は気持ちが似ているのではないかと思ったのだそうです。

ハイネッケはドイツ人の父親とユダヤ人の母親の元に生まれその歴史的な背景を見続け、違いや差からくる争いを何とかして解決したいと願っている人でした。
問題の大きさは別として、それは私自身の生い立ちからきた悩みと少し共通していました。

「これ、あなたも一緒に日本でやったほうがいいと思わない?」と彼が言ったのです。

彼は「見えない展覧会、ヨーロッパで大好評。席も取れない」というようなことを書かれた新聞記事を私に見せて、「季世恵さん、ヨーロッパは進んでいるよ。見えないものの価値を経済にもつなげている。あなたの活動も見えないことを価値としているでしょう?」と熱弁します。

けれど彼の言いたいことがちっとも分からなくて、「すごいですね!日本でできたらいいですね。どうぞ頑張ってください」と人ごとのように返していました。

何度か相談には乗っていたものの、ある時大勢の人を引き連れて「癒しの森」に彼がやってきたのです。

そして皆さんを私の前に並べ、いきなり私を紹介してくれたのですが、私がダイアログのリーダーのようなことを言っているのです。びっくりしましたが、その後音沙汰がない。

私は毎日の患者さんで忙しくそんなことをすっかり忘れていました。ところがある時、彼が車でやって来て、ビックサイトに連れて行かれました。

そこが、ダイアログ・イン・ザ・ダークの初開催の会場でした。そこで、これから体験者が出てくるから、ファシリテーターとして彼らを出迎えてってその場で言われたんです。今考えてみてもずいぶん強引な人です。

でも、暗闇の中がどうなっていて、何が起こってるのか体験したことのない私にはさっぱり想像がつきません。

ご体験者は何人か泣いてる人もいたので、その理由を聞くしかないと思ってお尋ねしてみたのです。すると驚くような答えが返ってきました。

「私は人が好きだったって分かって泣いています」って言うの。ご体験者を迎えシェアするお部屋にはテーブルが設置してあり、そこには画用紙もあったので絵や文で表現することをおすすめしてみると、どなたも席から離れずみなさん、黙々と描くのです。いい絵でした。

多くの人が描く絵は人や音との触れ合いのような絵でした。

手と手が結ばれた絵を描く人は「暗闇の中で歩いていて不安で、同じ参加者の人と肩が触れてぶつかって、ああ、人ってあったかいなって思って。今朝までは電車で人とぶつかって、ちって舌打ちしてたけど、その人に対して、ごめんって気持ちまで出てます。」って。

絵もコメントも素敵なものばかりでした。

心にトラブルのある人が元気を取り戻すと、人が好きというような感情を抱き始めます。そうなってくると「そんな自分も好きかも」という気持ちが芽生えます。

ダイアログのご参加者の姿を見たとき、これはすごい!と思ったのです。暗闇の中で人と助け合い、そして人っていいなって思えるそんな場を作っているのですから。これはもう、日本に広めようと思ったんですね。

 

自分が好きだな、人が好きだなっていうのが人の本来の状態なんですね。

そうですね。なので、私は、セラピストやダイアログ・イン・ザ・ダークの活動を通じて、人が本来の姿でいられることを大切にしたいと思っています。

対等な中で対話をすること

季世恵さんが活動を通じて大切にされていることについて、さらに聞かせてください。

対等な中で対話をし、信頼関係を深め仕事を進めていくことも大切だと思っています。ダイアログスタッフは「目を使う人」「目を使わない人」なんて言いながらお互いにできることを最大限に活かし協力しあっています。その関係性を世の中にも広めていきたいです。

対等って、他者と自分の中だけでなく、自分自身ともそうなのですよね。人って自分に結構厳しいのです。ずいぶん条件をつけています。

病気になったことで自分自身の見方を変えてしまったり、また職業名や肩書きを自分にもつけ、人と比べ一喜一憂してしまう。すると自己との対話も失われていく。

ただの自分でいられたら本当の意味で幸せだと思います。

この先に実現したいと願っていることは何ですか?

いくつか願いはあります。
亡くなる人が望むなら最期までその活動が出来る病院を作るとか、何らかの原因で親御さんと離れてしまった子ども達と共に暮らせる家を作るとかね。
でも出くわした問題を何とか解決しようともがいているうちに、それが仕事になっていく感じで。

実は昨年の春にダイアログ・イン・ザ・ダークの代表と再婚しました。再婚を決意したのは彼が治らない重い病気を抱えたからです。講演中に突然倒れ、大きな手術をしましたが、その時に彼の願いを共に実現したいと心の底から思いました。

今は見えない空間だけですが、今後は、聞こえない空間を聴覚障がい者と作ったり、命や歳を重ねる豊かさを考える空間をご高齢者と一緒に作っていくことを進めていく予定です。

2020年東京オリンピック・パラリンピックまでにはそれを実現したいです。

トリノオリンピックではオリンピック協会がダイアログに声をかけ、オリンピックとパラリピックの架け橋のような役目を担っていました。

真っ暗な中でトリノの街を感じ、更にはボブスレーまで暗闇の中で体験できるようになっていて、パラリンピック選手の活躍を感じたり、目を使わずに他の感覚でトリノを体験できるのです。障がいのある人達への理解も深まったと思います。

他国のダイアログ開催国は国や行政、民間が協力しあって運営しています。日本は現段階においてまだそのような仕組みが出来ていません。

でも5年後には実現することを願い頑張っています。そう、日本はパラリンピックの視聴率がとても低いのだそうです。もっともテレビでもあまり放送されていないのですが。なのでパラリンピック選手の頑張る姿を知らないのですね。

また海外の場合、子ども達は課外授業の一環でダイアログを体験することになっています。それは何としても日本でも実現したいのです。

子ども達は、障がい者と出会い直接対話をします。違いを知る中で多様性を受け入れ、自分の知らない文化を学ぶこともできます。

不自由な人という側面的な見方を変えることで、その人の素敵なところをいっぱい発見できますよね。

見えなくても、聞こえなくても、車イスでも、義足でも、義手でも、国籍が違っていても、歳の差があっても、男女でも、他人でも家族であってもそこには自分と異なる存在がある。

違っていて当たり前なので、違いを知りそれを受け入れ、関わっていき、そこにある文化を知っていけたらいいと思っています。

知らない世界は驚くほど豊かです。それを知り受け入れ合うことで、私達は本当の意味での豊かさを感じることができる。そのことを私ももっと知りたいですし、伝えていきたいです。
しかも楽しみながらというのがいいでしょう?

頭で理解するんじゃなくて、身体で体験するということですね。子供たちにも、体験してほしいですね。

普段は静かな子が暗闇ではリーダーシップをとっていたり、いじめられていた子が暗闇の中でいじめっ子の手をとって出てくることもありました。

不登校だった子が人との関係性を構築し学校に戻った子もいました。なんの魔法だろうと周りは思うのだけれど、魔法ではなく人の力なのですよね。

 

人を本来の姿に戻すのは、人の力なのですね。

そう思います。それを実感できるために、そんな場を作っているつもりです。でも本当は暗闇なんて必要ない世の中になったらいいねって夫でありダイアログの代表である真介と話しています。暗闇がなくても対等な対話ができるって素敵ですよね。

インタビューを振り返って

対等な関係性の持つ力、
人は人との関係の中でより自分になってゆく

人が本来の自分であるところから、人と共に生きることへの願い。志村さんのそんな響きが、バースセラピストのお仕事や、ダイアログ・イン・ザ・ダークの活動を通じて表現されていることが伝わってきました。

人はどんな状態でも、いつからでも本来の自分として生き、常に生み出し続けることができる。

その志村さんのまなざしは、コーアクティブ・コーチングの土台として大切にしている『人はもともと創造力と才知に溢れ、欠けるところのない存在である』(People are Naturally Creative, Resourceful and Whole)という考え方に通ずるものがあります。

そして、真に対等な関係に立つとき、その本来の自分の姿は自然と現れてくる。それは、対等な関係性の持つ力であり、人は人との関係の中でより自分になってゆくのだということを、志村さんは教えてくれていると感じました。

あなたは、あなたの大切な人たちと、どんな関係でありたいですか?

 

響きから生きる人たち インタビュー
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